囲壁砲台

「支那囲壁砲台」のある場所

「支那囲壁砲台」とは、「一望千里」と呼ばれた習志野原にあって、演習用に中国の家屋を模して作った砲台のミニチュアであり、銃眼が開いている。この「支那囲壁砲台」は、現在の習志野市東習志野にあり、近くには中学校や体育館といった公共施設や住宅が建ち並ぶ。この「支那囲壁砲台」は、今も個人のお宅が居住する家として使用されているが、この家の方に話をうかがうと、戦後開拓で入って、国から一町歩ほどの土地をもらって住み着いたのだという。昔は、他にも廠舎などがあり、この「支那囲壁砲台」も一部削った部分もあるそうだ。しかし、よく保存されてきたものである。　　　　　　　　　　　

　＜戦前の「支那囲壁砲台」＞

「支那囲壁砲台」とは

習志野原では近衛騎兵連隊、習志野に駐屯している第十三から十六の各騎兵連隊をはじめ、多くの軍隊による演習が行われ、将兵の鍛練の地としてその名が知られてた。軍隊の演習では、予想される様々な状況を想定し、それに対応ができるように訓練が行われた。「支那囲壁砲台」も、その一種の施設で、中国での戦闘を前提に砲台に肉薄し攻撃する、あるいはその砲台を銃弾の標的にする訓練が行われたようである。家の方の御厚意で見せてもらった囲壁の裏側には、階段状のものがあり、鎖がついている。あるいはその階段に上って、壁を這い上がる訓練をしたものか。

こうして、「支那囲壁砲台」で訓練した多くの兵士が、実際に中国戦線に送り出された。　　　　　　

　＜現在の「支那囲壁砲台」：下の写真は囲壁内部＞

「支那囲壁砲台」を作った工兵たち

この「支那囲壁砲台」を建設したのは、工兵隊である。そして、それは昭和9年（1934）に建設されたと伝えられている。満州事変2年後で、日中戦争前夜ともいうべき当時、さらなる中国侵攻を企図する軍部の計画を実行するために、その準備が行われてきたが、この習志野でも相当訓練が積まれた模様である。

居住している民家の方の御厚意で、囲壁内部の様子も見せていただいたが、塀の裏側上部に「圍壁」の文字があり、よく見ると「昭和九年二月○六日」「工兵第一大隊○○隊○○以下三十六○（名か）」と判読しにくい箇所があるが、伝承通り、昭和9年（1934）に建設されたことが読み取れる。工兵第一大隊は、明治4年に大阪で編成され、日清・日露両戦役に従軍、関東大震災の復興にもあたった部隊である。おそらく、建設した工兵たちが、その技量を誇らしげに文字として残したのであろう。その工兵第一大隊も、第一師団隷下の部隊として昭和11年（1936）に中国東北部の孫呉に移駐し、対ソ防備とソ満国境付近の交通網の整備にあたった（同時に、昭和11年（1936）工兵第一連隊となる）。さらに第一師団のフィリピン派遣が下命され、師団とともに工兵第一連隊は昭和19年(1944）7月にフィリピン・レイテ島に渡ったが、激しい米軍との戦闘で師団主力とともに敗走し、セブ島へ脱出、セブ島で終戦を迎える。レイテに残った兵は、殆ど全滅に近かったという。
　　　　　　　　　　　　　　

＜塀の裏側上部にある「圍壁」の文字＞

　　＜昭和九年ニ月○六日と読み取れる製造年月日＞